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 ノヴァが縮んだ話の続き。




 どう考えても背が10センチ近く縮んでいる。――ありえない。
 いったい何の病気か、とオムレツを放り出して近付くヒューにノヴァはようやく自分の体の変化に気づいたようだ。
「あ? こういう症状が出たのか?」
 腰にタオル一枚巻いただけの彼は自分の体と、ヒューを見比べ、
「何勝手にでかくなってやがる!」
 と怒鳴るが、どこが大きくなっているのか言わずもがな。
 ノヴァはバスルームに戻り、備え付けの鏡を覗いた。目は魔晄を帯びたままなのを確認し、この体はソルジャーになってからのものだと確信する。
 確かに自分の貌だが、幼さの残る輪郭にノヴァは舌打ちした。
 報告しろと言われていたので、渋々開発に連絡を入れたが、
『小さくなっただけ? 他には? やっぱソルジャーはつまんないねー』
「おまえ………」
『僕にはカエルのサイズの方がよっぽど大事』
 と言われて、ノヴァのプライドに亀裂が走る。携帯を壁に投げつけ、端末に向かった。
「………動物虐待はヤバいよ」
 ヒューがぼやくが、もとより聞く耳は持たない。ノヴァは本部ビルの空調システムにハッキングすると、無駄に電力を食ってる開発のセクションすべての供給を断った。それだけでは飽き足らず、科研が実験用に駆ってる蛇型モンスターの移送を指示する。もちろん、届け先は開発だ。

 各チームリーダーには緊急連絡網がある。タークスに言われて渋々作ったものだが、意外にも役立っている。ノヴァはそれぞれのリーダーを呼び出し、どれくらいで薬が抜けたかを聞いて回った。
『Ⅴ系の魔法を連発したら治った』
 とはちびっこランドである。いったいどれだけのMPを消費したのか。何よりも。
『訓練所の壁がぶっ飛んだけど』
 あとから苦情が来そうだ。
 無駄毛が生えた召喚士は、エステに丸二日こもったと言う。
『抜いても抜いても生えてくるから、もうエスティシャンが泣いちゃってさー』
 無理もない。
『トライアスロンを三度繰り返した』
 ガーウェインの声に、よくぞそこまで無駄に体力が余っていたものだ、とノヴァは呆れる。

『で、お前はどうなった?』

 と聞かれて、ノヴァは風呂に入ったら身体が小さくなったと答えた。

『じゃあ、また風呂に浸かれば戻るんじゃないか?』

 バカすぎる、と思ったがそれも一理ある。
 着ていた服もぶかぶかなのでタオルを腰に巻いたままでいるのも限界だ。通信を切り、ノヴァは再びバスルームに向かった。ついでにヒューに声をかける。
「お前、暇ならライから服借りて来い」
 あのサイズならイケるかも、とまた湯船につかろうとして、その腕を掴まれた。
「ヒュー?」
「………」
 らしくもなく、ヒューは心が千々に乱れていた。
 何しろ彼にはコンプレックスがあった。ノヴァより年下であること、ソルジャーとしての経験が浅いことである。それは如何ともし難いことだと分かっている。分かってはいるが、そのことでひどく落ち込むことがある。そんな風に落ち込むのは自分だけだと考えて、さらに落ち込む悪循環。
 だが今は違う。少なくとも自分が年上だ。
「もっと頼ってくれてもいいからね!」
「………」
 そんな彼を呆れ顔で見つめ、
「ミッドガル条例第七条」
 と低く呟いた。


 ミッドガル条例の七条とは、ある一定の年齢に達していない少年少女との性交渉を合意であろうとなかろうと一切禁止すると言う法である。
 議会で可決されたのは十年ほど前だが、当時その対象年齢だった副社長がひどく憤っていたと言う。

「ばれたら実刑だそうだ」
 唇を吊り上げる電卓は小さくてもやっぱり電卓だった………。

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