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 リスが森の泉に落ちた。

 モモンガの真似をして、両手両足を広げたまま木から木へ、そして泉を横切ろうとしたらしい。
 ヒューからの知らせを受け、シィンとノヴァは泉に駆けつけた。この泉には女神が住むと言う噂だった。
「どうにかして呼び出せ!」
 シィンが喚くより先に泉から一人の女性が現れた。

『あなたが落としたのは、金のリスですか、銀のリスですか?』

「………」
 咄嗟に『金のリス』と答えそうになったのはノヴァだ。
「茶色」
 と言ったのはヒューで、すかさずノヴァに殴られる。
「こういうときは、素直に言ったほうが金も銀ももらえるんだ」
 結構つつましい生活をしている魔術師だった。

「――ナマモノで」

 ノヴァが言うより先に、
「人間で」
 シィンが答えた。
「リスを見殺しにする気か!?」
 ぎょっとして声を張り上げるノヴァとヒューに、死神は飄々としたものだった。
「いや、あれが人間になったら面白いと思わねえ?」
 冗談で言ってみた、と笑う死神に、女神は頷いた。

『では返しましょう』

 泉から現れたのはリスではなく、小柄な少年だった。
 シィンを見て嬉しそうに飛びつく様は、あのリスそのものだ。
「!!??」

『では晩酌があるので失礼』

 泉が妙に酒臭いのは気のせいか。
「あの酔っ払いが!」
「もっかい泉に落とせば戻るんじゃね!?」
「口からどんぐりを出すなぁっ!」
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「あ、浮気してる」
 と言ったヒューの声は死神を示しているのではない。
 狼の蒼い目は、大きなブナの木の枝に座る二匹のリスに向けられている。
 死神に懐いている、肝の太いリスに、これまた別なリスが毛づくろいなどして構っている姿は実に牧歌的で微笑ましい。
「メスの匂いがする~」
 笑うヒューに、シィンは憮然として茶をすする。
「あれはたぶん兄弟リスだ」
 リスも、ほんとうはシィンのそばに行きたいのに兄弟が離してくれずにせわしく尻尾を振っている。
 そんな感情を感じ取ったのだろう、メスのリスは木の下の死神に向けて思いっきり。

 ――どんぐり投下。

「っ!」

 この間は、座った場所にイガ栗が仕込まれていた。
「………」
 痛くはないが、結構つらいシィンであった。
 

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