わたしだけ…?
こんなのを書いて遊んでました。
「更地の会に行ってくる」
別名『カエルの会』とも言う。『更地の会』とは、実戦部隊であるソルジャーと、その後方支援の開発との会合を差す。垣根を取っ払った『更地』の意味だが、むしろ喧々諤々と言い争い、不毛な話し合いをあてこすっての名称である。
しかめ面で会議室に向かうリーダーの一人、ノアルヴァイスの裾をライが引っ張った。
「開発トップに聞いてきてほしいんだけど」
「――あ?」
自分で訊いて来い、と言いかけるもののナイジェルは滅多に開発局から出てこない。彼に会うためには海千山千のカエルの山を越えていかねばならぬ。――いったい何の苦行であろうか。分かっているだけに、ノヴァは先を促す。そして猛烈に後悔するのだった。
「性転換の薬って作れない?」
会合は終わった。
『マテリアにカエルのエンブレムを入れる』と言う開発の案にマテリア課が発狂し、とばっちりを受けぬよう壁と同化した武器保管担当をこっそりガードするソルジャーたち。いつにもまして開発は絶好調だった。
「次は絶対総務も呼べよ!」
そして予算を削ればいい、と息巻くちびっこランドの横をすり抜け、ノアルヴァイスは開発局トップに近づいた。
「よう、カエルバカ」
「………」
ナイジェルは胡散臭そうにソルジャーを見上げた。
無遠慮な視線を無視し、ノヴァは単刀直入に切り出した。
「男が女になれるもんか?」
「………カエルは出来るけどね」
人間は無理、と実にすげない。
「外科手術で見てくれだけなら可能」
「だよな…」
「………女になりたいのか?」
問いかける声に、ノヴァが顔をしかめる。
「聞いてくれ、って頼まれたんだよ」
『だって俺が女になれば、シィンも考えないで済むだろ』
男同士――それだけが障害だとライはどこまでも楽観的だった。しかし、たとえライの股間の出たところが引っ込んで、胸が生えたとしても到底シィンの好みになるとは思えない。顔の識別もできないくせに、シィンの彼女はゴージャス揃いだ。バラやユリの中にぺんぺん草がまぎれるようなものである。
(いや、物珍しさから手を出すか…?)
蓼食う虫も好き好きと言うし――考え込むノヴァを前に、ナイジェルは小馬鹿にしたように鼻を鳴らす。
「やっぱりソルジャーって馬鹿揃いだよね!」
ひとしきり笑った後、彼はぼそりと呟いた。
「………君が女になりたいのかと思った」
「なるか、んなもん」
即座に吐き捨てるが、続く言葉にノヴァは声を失った。
「だって、君が楽になれるだろう」
「………」
ノヴァは、固まった。
思いもよらぬ発想だ。自分が女なら、ヒューとの関係が楽になれる。
――そんなことは考えてもみなかった。
彼との関係はつらくはないが同様に楽しくもなく、同性であることが原因の一つであることも否めない。ちょいと削ってちょいと膨らませるだけで、楽になれるのかと思うと目からウロコが落ちた気分だった。
「………」
フリーズしたノヴァを横目に、
「地雷踏まれてることにも気づかないなんて…」
「頭いい奴の恋愛ってめんどくさいねー!」
召喚士とちびっこランドはクワバラクワバラ、と首を振るのだった。