神羅カンパニーは意外とイベント好きだ。クリスマスにニューイヤー、バレンタインと続いて、しばらくイベントがなかった腹いせとばかりに七夕を行う。エントランスに巨大な竹林をしつらえ、色とりどりの飾りが空調の風にゆらゆらとなびく様はとても風流だ。
そしてなぜか笹にぶら下がったカエル型の風鈴がけろけろとさえずるのだった。
「なんじゃ、こりゃー!」
ミッション帰り、よろよろになりながらも報告書のために本部ビルに戻ったソルジャーたちは、出迎えたのどかな風景に悲鳴を上げる。あの殺伐とした世界から一転してこのカエルの合唱。
――気が狂いそう。
「やかましいわ!」
シィンが雄たけび、合わせた双剣の刃鳴りが衝撃波となって風鈴を砕いていく。
まさにソルジャーの真骨頂。一瞬にして破壊する様は見事である。
「まったく、うぜえ」
眉間にいっそう深いしわを刻み、ノヴァが落ちた風鈴を踏みしめてエレベーターへ向かう。後片付けをしないのもソルジャーのソルジャーたる所以だった。
「大体何の騒ぎだ、あれは」
ブリーフィングルームで咥えた煙草に火を点けながらシィンが唸る。
端末で報告書を作成しているザイオンが苦笑した。その傍らには泡が妙に出ているジンジャーエール(ザイオン談)が置かれている。
「七夕だよ」
「七夕だあ?」
「ウータイの方のお祭りみたいなもんかな。一年に一度しか会えないカップルに願いを叶えてもらうんだっけ?」
なんだか微妙に違うザイオンの見解だった。
「年に一度しか会えないんだったら、他人の願い事なんか叶えてる場合じゃないだろうに」
もっともな事を口にしたのはライだ。シィンも頷く。
「だよな、速攻突っ込まないと」
「………」
なんて情緒のない。
かく言うシィンはこれから24時間の間に5人の女とデートを控えていると言う。
「一人四時間ちょいか」
イケる、と拳を握るそのローテーションは、下手なミッションよりハードに思える。
「まあ、確かに人のことにかまけてる場合じゃないよな。年に一度なら、近況話すのだって時間とるし」
今日も彼女にどんなミッションだったと嘘をつこう、と窓の外を見るザイオンの目は虚ろだ。酔っ払ってるのだろうか。
「近況なんてメールで十分だろ」
とは、今の今まで黙々とデータをとっていたノヴァだ。
「………星はメールしないだろう…てか、あんたが近況メールするようなタマか」
メール、イコール業務連絡だ。単語のみのメールは気遣いをまるで感じない。
「だからそんなタマじゃないんだから、さっさと家に帰してくれないと!」
カエルコールもないのに、と廊下でヒューが苛々と足を鳴らす。
一年が一ヶ月でも速攻突っ込みたい、万年発情期な犬であった。