言い訳、花とくればこの二人かな、と。
「ほんっと―にごめん!」
朝日が燦々と差し込むバーカウンタ。
いつも夜しか足を運ばないので、こんなにも日当たりが良かったのかと意外に思う。
「ごめんなさい、反省してます!」
その板張りの床に影を落として平謝りにあやまるソルジャーが一人。
「………」
カウンタの上には一晩中着信を待っていた携帯が鎮座している。昨夜何度いじったかしれぬ携帯を、クラウドはそっと開いた。着信も履歴もそこにはない。代わりにコメツキバッタのように謝罪を繰り返すザックスの姿があった。
「昨夜九時にここで、って言ったよな? ミッションから帰ってきてたよな? ミッドガルにいたよな、あんた」
なのに今は朝の9時。
まさか21時ではなく、今が約束の時間だったのか。
否、そんなはずはない。この店のクローズは午前5時だ。馴染のマスターは、『信用してるから』と鍵をクラウドに預けて帰ってしまった。
「なのになんで約束の時間に遅れる!? なんで連絡くれないんだ!?」
徹夜明けも手伝って、クラウドは痛むこめかみを抑えて声を張り上げた。
「だーかーら、花売りの女の子をスラムまで送ってきたんだってば。携帯は本部に忘れたんだよ」
「スラム!? スラムからここまで一晩かかるか!? どうせその子のとよろしくしてたんだろ!?」
花売り――その隠語が分からぬほどクラウドも初心ではない。
「いや、好みだったけどね」
ぬけぬけと抜かすザックスが本気で憎い。
冗談抜きで殺してやろうかと、クラウドはカウンタに置かれた酒瓶を握る。
「本気で惚れてるやつがいるのに、浮気なんかしねえよ」
ほら、と渡されたのは花一輪。やわらかな香りにほんの少し、クラウドの怒りが引っ込む。決してザックスの台詞に絆されたわけではない。――そう、必死に自分にい聞かせるクラウドだった。
「あの辺物騒だし、最近変なヤツに付きまとわれてるって言うからさ。一晩だけ、町内パトロールしてた。ソルジャーがウロウロしてると噂になれば、ちょっかいも出されないだろ。その子とは手も握ってないよ」
「………でも、好みだったんだろ」
手持無沙汰に花をもてあそびながらそう言うクラウドの声に、怒りはない。
「理想と現実は違うんだよ、クラウドくん。俺は100人のカワイ子ちゃんより、ここでずっと俺が来るのを怒りながら待っててくれるお前がいい」
「怒ってない」
怒る気も失せた、とクラウドはスツールから腰を上げる。
「クラウド?」
「俺もヤローから花もらって喜ぶ趣味はないからさ、代わりに朝飯おごれ」
「おう。デザートもつけちゃる」
調子よく請け負う男にクラウドは。
「朝から、んなん入るかよ」
笑って朝のバーを後にするのだった。