そしてついに犬がトップに躍り出た! あんなダメな男なのに何故…。書いてる本人がビックリだよ。
せっかくなので、お蔵入りにしようと思ってた拍手ボツを上げてみる。書いててどんどんツンデレの意味が分からなくなった話です。
「………ってぇ」
ミッション前のシャワールーム。
シィンの呻き声に、ライは仕切りから背伸びして隣を覗き込んだ。湯煙はない。壁に両手をついて頭から水をかぶっているシィンの背中には、はっきりと情事の後と知れる爪痕が刻まれている。
「お盛んだねえ」
同じく隣から覗きこんだザイオンが口笛を吹く。
「ったく、爪くらい切れってんだ」
凶器かよ、顔をしかめるシィンの肌は皮膚が裂け、未だうっすら血がにじんでいた。
「ミッション前くらい加減しろよ」
ライの口調はいささかつっけんどんだ。シィンの彼女は週変わりだが、時折こうして激しいタイプにかち合う。これ見よがしにシィンの体に跡を残すのは別な彼女への牽制か。
「犬の縄張り争いみたいだな」
そう言うと、シィンは唇を歪めた。
「それもあるかもしれんが、毎度これが最期かも、と思うと…、な」
つい激しくなってしまうのだ、と悪びれもしない。
「ガキには分かるめえ」
「同い年だろ」
反論するライに笑い、シィンは『一旦ロッカーに戻るわ』と腰に一枚巻きつけた格好でロッカールームに向かう。その後をライは慌てて追った。タオルで触れたくないのだろう、むき出しのシィンの背中は否応なしに爪痕が目立つ。
「………」
男の勲章を羨んではいない。羨む気にはなれない。だからと言って同情する気にもなれない。シィンにも、爪痕を残した彼女にも。
「ちび?」
何故ついてくるのか、とシィンは軽く目を見張る。
タオル一丁のシィンと違い、ライは既に服を着ている。ロッカーに用はない筈だ。急いで着たらしく、ぬれた髪からは滴がぽたぽたと落ちて肩を濡らしている。見かねて頭を拭いてやれば、
「ち×こ隠してたタオルで拭くな! いや、そもそも廊下で丸出しするな!」
激しく怒られた。――理不尽な。
ぷりぷり怒りながらそれでもライはロッカールームまでついてきた。
「――ケアルでもくれんのか」
わずかに期待するが、
「ミッション前に使うか、もったいない!」
すかさずライは吐き捨てる。そうして乱暴にロッカーの扉を開け、中からテーピング用のテープを取り出した。
「背中見せろ」
沁みると言ってもどうせ皮一枚だ。テープで摩擦を防げば、外征先に着く前には傷も薄くなっているはずだ。
備え付けの椅子に座らせ、ぺたぺたとテープを張っていると、爪痕に紛れて赤い箇所に気付いた。――キスマークだ。
「………」
昨夜の彼女が口吻けた箇所に、ライはそっと触れた。
同情はしない。
(しないが嫉妬はする!)
「だっ!」
びたん、と大きな音を立ててライはテープで痕を隠した。よれて空気が入ったが知ったことではない。
「終わり! 遅刻すんなよ、電卓の蹴りが飛んでくるぞ!」
そう言って立ち去ろうとするライの腕を、シィンは乱暴に掴んだ。
「シィ?」
見上げてくる切れ長の双眸は獣のようだ。ミッション前、すでに薬を投与しているのかもしれない。獲物を前にした獣のような鋭い眼差しにライの鼓動が跳ねる。
そしてシィンは。
「いだーーーーっ!!」
ライの腕の内側に吸いついたのだ。
噛まれてはいない。しかし容赦ない吸い付きにライは肉が抉れるかもと思った。
「――礼」
ニィ、と笑うシィンにライは涙目だ。
「これのどこが礼だ! こんな――」
「物欲しそうだったからな。参考にしとけ」
そう言ってひらひらと手を振るシィンを尻目に、ライは己の腕を凝視する。そこにはまぎれもないキスマークがあった。
「………」
(このキスマークが消える前にミッション終らせよう)
そうして記念撮影をせねば、と硬く誓うライであったが。
「どうしたんだライ、でっかい虫刺されが出来てるぞ!」
ドレイクに目ざとく見つけられてしまった。
「赤みをとるには冷やして温めてを繰り返せばいいらしい」
「いいっ! いらない!!」
「遠慮をするな!」
「全身に広がったらどうするんだ」
世話焼きなパワーチームに保冷剤と暖かいおしぼりを交互に押しつけられ、記念のキスマークは撮影する前にわずか30分で消えてしまうのだった…。